皆様ご無沙汰しております。最近はtModにハマってるせいでこの記事の主題のイベントの結果発表をリアタイで見そびれたTaWでございます。元は非公式なのを公式が採用したみたいですが、アレ凄いですね。マルチにも対応している上、UIがやり慣れたver.1.3なのも相まってついついやり過ぎて時間の感覚が…、と序盤から派手に脱線しそうなのでこれくらいにしときましょう。
  さて、先日(2021.06.03 - 2021.07.05)、BMSイベント「MUMEI Academy 2021(以下MA2021)」が開催されました。そして1ヶ月の集計期間を経て結果が発表され、CLASS AはYuKaさんの『Halley』、CLASS Bはりょくちゃさんの『ホーンテッド・ドールキャッスル』、CLASS Cはにょろもさんの『Earthpowerあるってばよ指先忍者』がそれぞれ優勝を勝ち取りました。おめでとうございます!!
 そして拙作『plazmon』は…

CLASS C33作品中9位でした(全クラス含めると25位)

今回は非常に力を入れ、上位5人に入るのを目標として頑張ってきただけに正直悔しさがかなり大きいですが、何気に自身初となる中規模以上のイベントでの1桁順位入りとなったため嬉しくもあります。因みにインプレ数に関しては5位だったので、ある意味目標が達成されていたりしたことをこれ書いている時に知りました。なんか複雑…。
 本記事では一昨年と昨年に引き続き、自身の作品の裏話と反省点の振り返り、そしてMA2021のオススメBMSの紹介をしていこうと思います。暇な方はお付き合いくださいませ。


①作品の裏話(作曲編)
  今年から無名戦とA-1が合体し(まあここ数年実質同じイベントみたいな扱いではありましたが)、MUMEI Academyとして生まれ変わり、それに伴っていろいろレギュレーションも変わる中、埋もれないようにするにはどうすべきか…と真剣に考え、やはりいつもの自分の感じではインパクトが出せない、ここは頼れるだけのツテを頼ってでも多方向にインパクトの大きい作品を作ろう!と決意し、1月にはもう動き始めました。
 で、これまでの自分のBMS界での経験から、作品が埋もれずに少しでも印象に残るようにするために必要な要素を色々ピックアップしてみました。以下がその内容です。

・ありきたりでないジャンル
・やりごたえのあり、尚且つ楽しい譜面
・かっこいいBGA
かわいい女の子

…まあ最後の除いて(実は冗談抜きに結構重要な気もしますが)当然と言われれば当然ですが、やはりコンセプトや裏設定よりも第一印象として入ってくるこの辺りがインパクトを出すために重要だと思ったため、その辺りを多面的に段取りを踏みながら作っていくことにしました。
 まず、ジャンルで個性を出そうと思いました。とは言え、創作ジャンルを作れるほど自分は音楽知識が豊富ではない、でもいつも通りのTECHNOやRAVEでは少し見劣りしそうだし…と考えた時、ふと昨年のWWでプレーしたとある作品が頭に浮かびました。Mr.K氏(中の人はHARD TRANCEがめちゃくちゃ強い某氏らしい)の『xeusonic』という作品なのですが、この作品のジャンルはELECTRO SHOCK。所謂本家で特定の作り手によって作られ続けているシリーズへのリスペクト的な作品だったわけですが、よく考えてみると自分の無名戦でチャレンジしたジャンルもELECTRO SHOCKだったのだし、特定の作家によって作られているシリーズものという結構ニッチなジャンルでありながら本家(とその周辺機種)を触ったことがある人なら大抵どんな曲調かわかるほど広く知れ渡っている、でもそれでいて似たような系譜を持つHARD RENAISSANCEやArtCoreと異なり作り手が少なく、言い方は悪いですがあまり手垢のついていないジャンルだからインパクトは十分に出せる、何よりELECTRO SHOCKへのリベンジを2年半ぶりにチャレンジしたい!と思ったのが決め手になり、ジャンルはELECTRO SHOCKでいくことにしました。そして本家ELECTRO SHOCK作者のYouTubeの動画を見て音作りを研究し、このシリーズ特有の疾走感と電子音メインな感じ、それから何といっても欠かせないアシッドサウンドの再現を試みました。あとサビのスネアフィルのバックで鳴っている電撃の音はどうしても良さげな素材がなかったため、思い切って自作しました。インプレでは残念ながら言及されませんでしたが、我ながら結構気に入ってます。そしてデモ音源が出来上がったのが2月頭。いつもの自分ならまず考えられないくらいの初動の早さでした。いつもそれくらい頑張れ 
 その後、音源のブラッシュアップを重ね、最終的な音源が上がったのは3月後半。今回はいつも以上にミックスに気を使い(具体的にはEQのカット音域を色々調整してみたり左右振りやダイナミクスあたりの幅を大袈裟なんじゃね?と思うくらい大きくした)、自分なりにも非常に満足のいく音源になったと思います。


②作品の裏話(ビジュアル編)
 次に、今回は初めてBGAを映像作家さんに依頼しました。いくらある程度のクオリティなら素材+簡易アニメーションで自作できるとはいえ、しっかりした3Dオブジェクトとかを使った独自の世界観を持ったBGAをガッツリ作るとなると現時点の自分の技術(とPCのスペック)では無理、というのと自分の曲に専門家が作った映像がついたのを見てみたいと思ったから、というのが理由です。しかし、自分の知り合いで作ってもらいたい方面が強そうな人は軒並み多忙か活動休止中で依頼できず、これは今回も自炊ルートかな…と半分諦めていたところで当初依頼した方の知り合いの方から返信があり、BGAを作ってもらえることになりました。いざとなった時に頼れるのはコネ
 そして、どうせならキャラクターも登場させちゃおう!と思い、イラストの依頼も投げることにしました。筆者の絵の腕については、ドット絵とピクトグラムに関してはある程度保証できるものの(自分で言うな)、世間一般で言うところの「イラスト」についてはとてもお見せできるようなものではなく、作品の世界観的にも見栄え的にもちゃんとしたイラストが欲しい今作においてイラストの依頼はほぼ必須でした。そして自分の想定する作品の世界観に合致した画風を描ける方を…ということでMicelleさんに依頼したところ引き受けていただき、こちらが設定画や設定、オーダー内容を送った数日後にはラフが届きました。速筆すぎる…。
 因みに、 どうせなので氏に送った最初の原画(というより実質原案)を以下に掲載したいと思います。本邦(というか全世界)初公開、plazmonのジャケットの原画はこれだッ!
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この殴り書きからあそこまで高クオリティでかっこいいジャケットを描いてくださったMicelleさん、本当にありがとうございました…。 
 そしてMicelleさんから完成ファイルが届き、テキスト見木さんからBGAが届いたのが5月の前半。登録開始までそこそこ時間があり、今回も余裕をもって登録初日を迎えました…と言いたいのですが、後述の譜面が遅れ気味だったこと、そして筆者のリアル業務が修羅場を迎えており、その隙を縫う形で制作を行なっていたことにより実際のところは結構ギリギリでした(主に精神的な意味で)。

 
③作品の裏話(譜面編) 
 楽曲、ジャケット、BGAときて次は譜面です。今回も例によって高難易度譜面をC4さんに、そしてDP譜面を昨年に引き続きYosk!さんに依頼しました。このお2人には昨年のA-1以降高頻度でお世話になっているのですが、やはり依頼する相手はクオリティ面に信頼ができる人で、尚且つ何度も依頼していてこちらの作風を認知している人の方が適切と思ったので、今回も依頼する運びになりました。そして未配置ファイルを送った後、程なくしてまずYosk!さんからDP譜面が届きました。それに添えられた説明に気になる文言が。
DP3譜面を製作させていただきました。(同梱されているoggファイルはすべて元のフォルダに一緒に突っ込んでください)
DPAについてはランダム分岐で曲変更を行っていますのでこちら大丈夫か確認おねがいします。
 !?
 以前、CROSSPEEDのDPA譜面でアレンジ変更ギミックが入った譜面を制作していただいたということがあるため(気に入ったのでSPAにも逆輸入、PMS差分にも入ってるらしい)、氏の遊び心ある譜面スタイルはかなり気に入っていたのですが、今回はなんとランダム分岐。しかもこのために別アレンジを新たに制作していただいたとのことで、良い意味で予想の遥か上を行く譜面が来たためめちゃくちゃテンションが上がりました(よくよく考えれば氏は『ポケモンラジオ』や『miss』といった非常に凝ったランダム分岐BMSを過去に制作されているため、得意な方向性なのかもしれません)。ただ、曲の尺が変わっている関係でBGAをそのまま入れられない、でもこのタイミング(4月半ばごろ)でテキスト見木さんに追加発注するのは無茶振りが過ぎる、でもどうせならBGAはあった方がいいよな…と思い、悩んだ結果結局今回も自作BGAを同梱することにしました。もうこいつBGA作家方面詰めた方がいいんじゃないか?
 そして5月に入り、登録開始まで後少し、ジャケットもBGAも来たのであとはSP譜面だけ…というところでC4さんの制作が難航しているとの知らせが入りました(後で分かったことですが、この時C4さんは別の方の作品の譜面も手がけていた上、ご本人もBMSパッケージ『ゆるゆる』に向けた作品の制作を行なっており、尚且つリアル業務もハードワーク、と非常に大変な中で引き受けてくださっていたようです。昨年の件といい過労で倒れないか心配です…)。当初昨年と同じくC4さんの譜面の配置を基準に低難易度の制作を行おうと考えていたため、なかなか厳しい状況になってしまいました。しかし、このままDPオンリーで出してしまうと確実にプレイヤーを篩にかけ、失点要因になりかねないため、SP譜面は外せない…ということで、SP NORMALとSP HYPERについては完全に自力で作ることにしました(結果的にSPA以上と少し傾向が変わってしまったのは事実ですが…)。
 譜面を作る上で参考にしたのは、やはり本家のELECTROSHOCKシリーズの譜面です。Acid合わせの階段やハンクラ皿は絶対外せないと思ったため、癖のある配置になるのは覚悟の上で入れました。とは言え、低〜中難易度であまりに癖の強い譜面だと適性者が楽しめないと思ったため、外せないところはしっかり入れつつもプレイ時の楽しさ、押しやすさも意識(特にHYPERのブレイク部分は当初もっと認識難の配置になってましたが、テストプレイ時に楽しさよりストレスの方が先にきたので大幅に調整しました)して「少し押しやすくなった本家」を念頭に制作しました。
 …が、すべてが終わり本記事執筆中の8月某日、SP HYPER譜面を見直してみたところ重大な配置ミスが発覚しました。ここまで気を付けて尚且つテストプレイを第三者に依頼した上でこうなってしまったのでかなり凹んでます…。
 そして登録初日までに何とかHYPER譜面までが出揃い、数日後にはC4さんからSPA・SPI譜面が到着し、登録初日に完全な姿で登録するには至れなかったものの、結構早い段階で完成形を会場に置くことができました。因みにSPI譜面はかなりの局所難で、譜面作者本人を含めた発狂プレイヤーの皆様を苦しめることになったようですが、それはまた別のお話。
 

④反省編
 そして実力とコネをフルに使い「現時点の自分にできる最適解」をもって挑んだ今回のMA2021ですが、結果は皆さんの知るところになりました。
 インプレ数は流石に昨年には及ばなかったものの(と言うよりも昨年が異常だった)CLASS Cでは5位、平均得点も一昨年や昨年(一昨年については得点幅の変更前のため あくまで参考ですが)に比べて伸びており、全体的に高めの評価をもらえたようでこれについてはかなり嬉しいですし、成長を実感しています。
 ただ、このイベントの肝であるNot Air率は今年も伸び悩み、それが結構致命傷になった部分があるため、「空気になり得ない要素」を研究し盛り込んだ身としては悔しさもかなり残りました。
 「空気とは何か?」という問いについて、多分答えを出すことはそう簡単ではないのだと思いますが、 また来年自分なりの答えをぶつけに行こうと思います。
 取り敢えず指摘された点としては以下のような感じでした。

 ・「ELECTRO SHOCK」というジャンルにおいての詰めの甘さ
  割とあったのが「Acidサウンドがデカすぎる」、「シーケンスが単調」というインプレでした。本家のELECTRO SHOCKも割とシンプルな作りのものが多いため展開についてはそこまで気にしていなかったのですが、確かにもう少し変化があった方がゲーム的には良いと改めて聴くと自分でも思いました。本家の『xenon』なんかも割と派手にアルペジオ鳴らしてますし、細かな電子音を叩けるのがこの手の曲の醍醐味でもあるので、そこは今後意識していきたいですね。あと、Acidサウンドについては結構な自信作だったので自ずと大きくなってしまったのかもしれません。第三者に聴かせて事前に意見求めた方がそういったミスは少なくなると思うので、今後はこちらでも人脈を活用しつつ…あ、でもそうするとインプレイヤーが減ってしまうわけで…この辺の加減が難しいですね。
オリジナリティに乏しい
 多分具体的な突っ込みで一番多かったのがこれじゃないでしょうか。創作ジャンルや先人リスペクト系だと常に付きまとう問題ですが(そして同時にプロの作曲家が高頻度で怯える点でもあるらしい)、MA2021開幕直後にある有名BMS曲を巡る騒動があったため、否が応でも深刻にとらえることになりました。何のこと?という方は自己責任で調べてください。あと例の一件で本ブログに凸かけてきた人については許すつもりは毛頭ありませんので。やはり人様の作品を参考にして曲の展開や音作りを進めると自ずとそれに似てきてしまうのも事実なわけで…。私としてはリスペクト元と差別化するためにHYPER TECHNO的なアプローチも少ししてみた部分があるのですが、やるならもっと大胆にやった方が良かったのかもしれません。一方で逆に「もうちょっと本家に寄せて欲しかった」という意見もあったわけで…。創作ジャンルを継いでいく(まあこちらが非公式で勝手にやっているのでこの言い方が正しいとは思えませんが)難しさを今回の件でひしひしと感じました。逆に言えば、今や音ゲー界隈で定番になっているHARD RENAISSANCEやARTCOREなんかはそのあたりの問題を乗り越えて定着していったのだと考えると、先人たちの苦労が偲ばれます。個人的には音ゲー初出の創作ジャンルでもっと展開できそうなものはまだある気がするので、もっと便乗していってもいいんじゃないかなあとは思いますが…。でもHUMAN SEQUENCERみたいなのが増えるのもどうかと思う

 今回はいつもに比べて具体的な指摘やツッコミが少なかった反面、「何が」減点要因になってしまったのかが具体的にわかりにくく、そのあたりを自分で突き詰める必要が出てきました。ある意味それも成長の証と言える気がするので、嬉しいような不便なような…。
 個人的には現BMS総理の2人からかなり肯定的なインプレを貰えたので、この調子で次回につなげていきたいところです。


⑤オススメBMS紹介
 ここから先が本記事のメインです。ここまでの話は忘れても構いません。 それでいいのか
 今回のMA2021はこれまでの無名戦とA-1が合体し、ルールや参加レギュレーションが変更された関係で初心者作家がより参加しやすくなる一方で意外な大物がCLASS Cに名乗りを上げるなど、新旧BMS作家が入り乱れて戦う良い意味で最後まで結果が分からない戦いになり、プレイヤーとしても過去最多クラスの作品が登録された昨年に続いて非常に盛り上がるイベントでした。他にも去年に引き続きインプレ配信が盛り上がりを見せたり、開幕アナウンスが閉幕アナウンスになっていたり、某音ゲーに入った作品の流れをくむようなタイトルの新作が登場したり、うるさいくらいに自己主張の激しい作品があったり、例によって妙にキャラの立つ偽名インプレイヤーが参戦してきたり、秘技・著作拳が発動したり、やったBMSを親だと思うひよこが場を和ませたり、𝐖𝐀𝐍𝐆 𝐂𝐇𝐀𝐍𝐆あるっしょと言っていたらそのまま優勝してたり、と昨年以上に濃い要素も満載だったわけですが、その中でも特にクオリティが高く個人的に印象に残った作品を本記事で紹介させていただきたいと思います。未プレイでどの曲からやったらいいかわからないという方は、とりあえずこの辺りから入ってみてはいかがでしょうか。
 …え?こんな記事呼んでる人は大体もう全曲プレイしてるって?作った方にこちらの「好き」が伝われば俺はそれでいいんじゃ!

(CLASS A編)
Warm Hospital / freesia
 昨年末に行われた非競争型BMSイベント「BMSをたくさん作るぜ’20(以下「Bた作」)」でデビューしたfreesiaさんの作品。穏やかな病院の待合室を思わせるイージーリスニング系の楽曲で、今回の癒し枠でした。譜面はSP・DPともにNORMALとHYPERの2譜面ずつ。いずれも低難易度に収まっているので、初心者の方はもちろん、高難易度をやり過ぎて疲れた方にもおすすめです。また、それに加えて24KEYS譜面が同梱されているため、プレイ環境がある方はやってみましょう。
 Bた作でも低難易度特化の作品を発表されていた氏ですが、プレイヤーのスキルインフレに伴い高難易度化が止まらない昨今のBMS界隈において、貴重な低難易度中心の癒し担当となっていくのでしょうか。今後の動向に注目です。
Forever Dreamers / Nvster*
 今回のMA2021 CLASS AはHAPPY HARDCORE作品が多く登録されましたが、一際クオリティが高かったのがこの作品とこの次に紹介する作品です。
 本家の某R氏の楽曲を思わせるサンプリングヴォーカルを使用した高揚感のある曲調で、良い意味で音ゲーらしさの王道を攻める!という安定感を感じさせる1曲です。宇宙を背景に歌詞が浮き上がるBGAもクラブでのVJ感があり、雰囲気を盛り上げてくれます。往年の音ゲーハピコアの好きな方はプレイしてみてはいかがでしょうか。
Halley / YuKa
 CLASS A優勝曲。タイトル通り彗星を思わせる、宇宙を駆け抜けていくかのようなスピード感と高揚感のある作品です。先ほど紹介したForever Dreamersとは対照的に、こちらは最近(2010年代後半以降?)の音ゲーのトレンドをつかんだ感じのFutureみのあるHAPPY HARDCOREとなっています。そして目を引くのが可愛らしくも色々とぶっ飛んだBGA。昨年の優勝曲とは別ベクトルにやりたい放題で、でも世界観が破綻しておらず流れるようにつながっていく辺りに作者のセンスを感じます。
ハクセン / Dracaeum
 CLASS A準優勝曲。毎年恒例のベースミュージック枠にして「これ絶対無名戦のクオリティじゃない」枠。本来制作経験が少ないBMS作家を対象として行われる無名戦、しかもDTM初心者を対象としたCLASS Aとは思えない高クオリティな作品で、登場するやいなや話題になりました。昨今の音ゲー界隈のトレンドにもなっているアートコア系統を思わせるリリースカットピアノのフレーズに始まり、軽やかな曲調が続いたかと思えば中盤で一転、濃厚なベースが暴れ回る第二の姿を見せ、「対比」というコンセプトを見事に表した作品となっています(会場コメントによるとこれでもかなり要素が削られているとのこと。一体原型はどのようなものだったのでしょうか…?)。
 譜面は全難易度とも隣接同時押しがアクセントになった譜面で、白鍵と黒鍵の対比をイメージしている…というわけではなく、こちらは偶然とのこと。
SYASAYO STRIKE / いなくーず
 一昨年のBOFXVの『雪原と少女の冒険』以来のBMSイベント参戦となったいなくーずさん。前作のVGM成分は受け継ぎつつ、そこにHARDCORE TECHNOの成分が加わった音ゲーらしいアプローチの作品です。ビート成分を激しく展開させつつ、ブレイクからサビにかけて透明感のあるサウンドへと移行していくあたりに曲の運び方が上手いと思いました。
 因みに氏のオリジナルキャラクターをテーマとした楽曲とのこと。今後もシリーズ化されていくのか、気になります。

(CLASS B編)
kika / KeiuO
 MA2021の記念すべき登録番号1番を勝ち取った作品。奇抜な作風で注目を浴び、BGA作家として昨年一躍時の人となったKeiuOさんが今度は「BMS作家として」MA2021に殴り込みをかけてきました。去年の無名戦17の優勝作品『Gimme All The Cocaine』のBGAでBMSプレイヤーたちの心を掴み、BOFXVIの『ゼイタクするまで抱きしめて』のBGAが会場を困惑と爆笑の渦に巻き込んでミーム的な人気を勝ち取るなど、BGA作家として唯一無二のセンスと高い実力を持つ氏ですが、実は氏はM3にも過去に参戦されているDTMerとしての側面も持っています。今回の作品は氏のこれまでのBGAのような派手さは鳴りを潜め、打って変わってストイックかつハードなテクノトラックとなっております。空読無 白眼氏によるこれまた硬派な感じのBGAも相まって、まさにビートを味わえるTECHNOとしてのジャンルの強みが生きている楽曲です。他方、テクノというと譜面が単調になりやすいという問題点にぶつかりがちなジャンルですが、ゲーム性の高い譜面でこちらの問題もクリア。今回見事BMS作家としても華々しいデビューを飾った氏ですが、マルチクリエイターとして今後の活躍にさらに期待がかかります。
 因みに同じくマルチクリエイターである空読無 白眼氏がBGAを担当していたため、「BGAとBMS担当逆にしたら無名戦出禁コンビ」とか某所で言われてたとかいなかったとか…。
The Grinder / ohon
 CLASS B準優勝曲。SHIKI氏のリミックスコンピレーションアルバムの収録枠を勝ち取る、onoken氏のfelysリミックス企画で特別賞を受賞する、とリミキサーとして非常に高い実力を持つohontaことohonさんがMA2021に参戦。今回の作品はPsytranceで、その特性上定義数との戦いになったりエフェクトの再現がなかなかうまくいかなかったりとBMSにおいては少しハードルの高めのジャンルですが、これが初BMS!?と疑いたくなるほどミックスやエフェクトが自然に調整されています。曲単体として見てもクラブミュージック、そして音ゲー両方の側面において非常にクオリティが高く、氏の実力の高さをBMS界隈にも見せつけました。
 譜面はPsytranceらしく高難易度寄り。うねるベースに合わせた乱打を楽しく叩ける譜面となっています。
Teravolt / かんざきしおん
 CLASS Aのfreesiaさんと同じく、昨年末のBた作でデビューした新人作家であるかんざきしおんさん。Bた作では穏やかなChillOut激しい曲調の音ゲーコアを同時に発表し、初制作にして只者ではない強者の片鱗を見せた氏ですが、今回はまさに王道をゆくエネルギッシュなTrancecoreで参戦。「無名戦に稲妻走る!!!!!!!!」(本人コメントより)という一言を体現するかの如く、疾走感抜群パワー抜群の音ゲートランスコアで会場を沸かせました。個人的には無名戦同期のあとぅす氏や2010年代中期を代表するBMS作家であるNIKITA氏に近いDNAをこの作品から感じました。一時期収録傾向が偏りすぎたためか本家ではめっきり少なくなってしまった直球型のトランスコアですが、その魅力はまだまだ衰えてはいません。
 譜面はエネルギッシュな曲調に呼応するかの如く高難易度寄り。ただし、同時押しの反応を考慮した配置を行うというプレイヤー目線に立った工夫がされているため、「専コン環境でプレイできない…」という方も安心してプレイできます。
Throoughout / MoVIIkA
 昨年の無名戦17、今年のBMS衆議院選に続く3回目のBMSイベント参戦となったMoVIIkAさん。これまでの和風ハードコア路線から一転、今回はサンプリングヴォーカルが映えるキャッチーなUK Hardcoreで勝負をかけてきました。高揚感があり、でも何処か哀愁を感じるメロディーと、力強くノリを重視したビートパートが正に(クラブミュージックとしての)UK Hardcore!という感じでプレイしていて気持ちの良い作品です。個人的にこの作品を聴いた時、初めて「音ゲーテイストよりも本来のテイストの方が強いキャッチーなHappy Hardcore」を聴いたときに感じた衝撃と同じものを感じたのですが…まあこれについてはどこかまた別の機会で(書くことない気もするけど)。もうすっかりBMS界隈ではお馴染みとなったArishima_さんによるこれまた高揚感抜群のBGAも必見。
 譜面は全体的に低〜中難易度寄りで、初心者の方も楽しめる難易度になっています。中盤の減速部分にはご注意を。
ホーンテッド・ドールキャッスル / りょくちゃ
 CLASS B優勝曲にして総合スコア1位。昨年の無名戦17でデビューし、これが2度目の無名戦となったりょくちゃ(※同じく昨年の無名戦に出場し、今年はゆるゆるに参加されている「りょくちゃくん」さんとは別人です)さんですが、昨年とは打って変わり、“kowaii”の名の通り可愛らしいお化けをテーマとしたファンタジックな世界観の作品でMA2021に挑みました。変拍子を多用した曲構成、管弦楽をベースにしつつ太いリードやハードコアキックが入ってくる音ゲー映えのするサウンド、小節線ギミックの仕込まれた譜面、と音ゲーとしての楽しさが突き詰められた作品になっており、それが優勝の決め手になったのかもしれません。
 音ゲーにおいてハロウィンやお化けがテーマの曲は高難易度になりやすいというジンクス(あくまで私が提唱してるだけなので例外はあるかもしれませんが…)にこの曲も当てはまるらしく、譜面は高難易度寄りです。お化けのいたずらにはご用心。

(CLASS C編)
Earthpowerあるってばよ指先忍者 / にょろも
 CLASS C優勝曲。BOFU2016でひっそりとデビューした後、BMSをいっぱい作る2019無名戦17を経て徐々に知名度を上げ、そして昨年のBOFXVIではかの名(迷)キャラクター・純子先輩とコラボするなど、勢いに乗りまくりのにょろもさん。「シリーズものはマンネリ化しやすく印象重視のA-1では不利」という弱点が不安視されたものの、蓋を開けてみたらこれまでの氏の作品から大幅にブラッシュアップされた本格派ユーロビートサウンド、「修行が足りんな」「Wang Changあるっしょ」「Earthpowerはあるし」「やったか!?(やってない)」といった迷言だらけのコミカルでストーリー性強めなBGA、タイトル通り地力配置中心のやりごたえ抜群な譜面とインパクトしかない要素が揃い踏みし、一躍話題に登りました。決して一発ネタでは終わらせない──という強い意志が感じられる作品です。
/ / ume
 ポップ・ロック系の歌ものBMSにおいて強みを持ち、最近のBOFではJ-Rockの普及活動を行っているベテラン作家であるumeさんがCLASS Cにまさかの参戦。今回の作品はミドルテンポのポップミュージックとなっており、ここ数年の作品に比べると落ち着いた雰囲気に仕上がっていますが、その安定のクオリティは健在です。譜面も低~中難易度中心のため、初心者の方にもおすすめ。曲名の「/」とは何を意味するのか…そんなことを考えながら世界観に浸ってみるのもいいでしょう。
 因みに中盤から女声のサブヴォーカルが入りますが、そこも含めヴォーカルは氏1人によるものとのことです。CSP氏といいqfeileadh氏といい、BMS界の男性ヴォーカリストは音域が広い方が多いですね…。
RoszA / くるやのぶ
 CLASS C準優勝曲。BMS界隈に定期的に現れる「ガバキック使い」の1人であるくるやのぶ氏が、今回も得意ジャンルで正面から仕掛けてきました。これまでの作品からさらにブラッシュアップされて勢いの増したガバキックサウンドは勿論、そのキックを楽しく叩ける譜面、そしてまさかのご本人の手による初制作とは思えないほど高水準なBGAと、これまでとは明らかに「違う」雰囲気を醸し出しています。やはりガバキックは「強い」──そんな感想を呼び起こす作品です。
calming patterns to soothe the mind / Lollipop, with respect to Alexandre de la Fontaine
 一昨年昨年と何かしら強烈なインパクトを参戦するたびに残していっているLollipopさんですが、今年も派手にやってくれました。ピアノ一本というシンプルな楽器構成でありながら、Black MIDIのごとく音符が敷き詰められた楽譜をそのまま弾かせるというとんでもない曲構成になっており、本人と思しき人が弾いている手元動画風BGAも相まってプレイヤーに強烈なインパクトを残し、指と腹筋を破壊しました。言うまでもなく超上級者向けの譜面が大半を占め、最も簡単な譜面(oiseaux sauvages)ですら☆7(その実態は☆9くらい)という好みが分かれそうな作品ですが、まさしく「BMS」という自由度の高い媒体でしか表現できないような遊び心あふれる作品であるとも言えるでしょう。
 そしてこの作品でついに氏はNot Airを勝ち取りました。昨年はGdbG入りも果たし、勢いに乗るLollipopさん。今後の動きにも注目です。
Rainy Bay / ウラボロシ
 Chiptuneを得意とされるウラボロシさんですが、今回は陽気なラテンジャズで参戦しました。タイトル通り海辺の情景が浮かぶような、夏らしい陽気で爽やかな曲調のジャズで、スクラッチパートやフルートやストリングスのソロが入るなど、目まぐるしく変化する展開で聴き手を飽きさせません。譜面はNORMALとHYPERの2種類で、どちらも中難易度寄り。演奏感を求めたストイックな構成になっています。


 イベント前後にBMS界隈を震撼させる事件が良い意味でも悪い意味でも相次ぎ、悪い方の影響で2HDBMSやBOFXVIIがあおりを受ける中、特に大きなトラブルもなく開幕、そして閉幕を迎えられ、イベントを通してプレイヤーや作者間の交流も新たに生まれたため、今回もイベントとしては大成功に終わったのではないかと参加者、そしてプレイヤーとしては思います。作者としても細かなアドバイスを貰えて作者間の交流も生まれ、プレイヤーとしてもある時は初心者とは思えない高クオリティな作品に驚き、ある時は初心者故作りがちな癖譜面に苦戦し、ある時は空気脱却のための盛大なネタに笑い、ある時は追っている作家の成長に驚く…と、無名戦は単なる初心者や空気作家脱却のイベントではなく、それ以上に意味のあるものになっていると私としては思います。
 イベントを開催していただいたMA2021実行委員会の皆様、そして主催のkei_iwataさん、素晴らしいイベントをありがとうございました。優勝した御三方、本当におめでとうございます。そして、私の作品でBGAを作っていただいたテキスト見木さん、ジャケットを描いていただいたMicelleさん、譜面を作っていただいたC4さん・Yosk!さん、テストプレイにご協力いただいたしらいしさんにこの場を借りてお礼申し上げます。何より、私の作品をプレイ・インプレしてくださった皆様に心より感謝します。

 さて、来年はどのような戦いが繰り広げられるのか、そして来年こそはTaWは空気脱却できるのか──。